近視進行抑制治療とは

「お子さんの近視、この先もっと進んでしまうんでしょうか」——健診で近視を指摘されたご家族から、よくこうしたお声をいただきます。近視は、眼球の奥行き(眼軸長)が伸びることで進みます。一度伸びた眼軸長は、自然に短くなることはありません。近視が強くなるほど、将来的に網膜剥離や黄斑疾患、緑内障などの合併症が起こりやすくなることが分かっています。近視進行抑制治療は、この進行そのものを止める治療ではなく、進むスピードを緩やかにして、大人になってから強度近視になるリスクを下げることを目指す治療です。近視が落ち着きやすくなる10代後半頃までは、継続していただくことが基本になります。

3つの治療法の比較

「近視の治療っていくつもあると聞いたけれど、結局どれが合っているの」というご質問をよくいただきます。当院でご提案している近視進行抑制治療は、点眼・コンタクトレンズ・光照射・眼鏡という異なるアプローチの3種類です。対象年齢や費用の目安をまとめると、次のようになります。

対象年齢の目安主な仕組み費用の目安(税込)
オルソケラトロジー年齢の下限は定めていませんが、20歳未満は慎重処方(医師の裁量)就寝中に装用する特殊なハードコンタクトで角膜のカーブを変え、日中を裸眼で過ごす治療レンズ132,000円(両眼)ほか(詳細は本文)
リジュセア(低濃度アトロピン点眼)5歳以上(〜15歳頃まで)就寝前に低濃度(0.025%)のアトロピンを点眼する国内承認薬点眼薬代 実費1箱4,500円/月ほど、診察検査は保険適用
マイサイト(近視抑制コンタクトレンズ)8歳〜15歳頃まで中心と周辺で度数を変えた1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(デュアルフォーカス)レンズ代 両眼月11,000円、診察検査は保険適用

どの治療も、近視の進行を完全に止めるものではありません。目指すのは進むスピードを緩やかにすることで、効果や副作用の出方にはお子さん一人ひとりで差があります。途中で治療をやめると、その子ども本来の進行スピードに戻ります。いずれも健康保険が適用されない自由診療(一部は選定療養)で、費用は治療法によって異なります。

各治療法の詳しい特徴

オルソケラトロジー

「寝ている間につけるだけで、日中は眼鏡なしで過ごせるんですか」と聞かれることがあります。オルソケラトロジーは、就寝中に特殊なハードコンタクトレンズを装用し、レンズの裏面で角膜のカーブを一時的に変化させる治療です。日中は裸眼で過ごせるようになり、近視の進行抑制効果も報告されています。ただし、レンズを外している間も角膜の形は少しずつ元に戻っていくため、効果を保つには毎晩の装用を続ける必要があります。

費用はいずれも税込です。オルソケラトロジー用のコンタクトレンズは厚生労働省の承認を受けていますが、健康保険は適用されず自由診療となります(医療費控除の対象にはなります)。日本コンタクトレンズ学会のオルソケラトロジー診療ガイドラインでは、未成年への処方は慎重に行うべきとされており、当院でも医師の裁量のもと20歳未満の方は慎重処方としています。就寝中に装用するレンズのため、レンズケアを怠ると角膜感染症などのリスクが高まります。毎日のケアと定期健診を欠かさず続けていただくことが大切です。オルソケラトロジーについてのご相談はお電話でも承っています(金曜午後は休診です)。

低濃度アトロピン点眼「リジュセア」

「点眼だけで近視の進行を抑えられるんですか」というご質問もよくいただきます。リジュセア®ミニ点眼液0.025%は、日本で初めて「近視の進行抑制」を効能・効果として承認された医療用医薬品で、2025年4月から使用されています。2026年からは、診察・検査・処方箋料に健康保険を適用しながら点眼薬代のみを実費でご負担いただける「選定療養」の対象となりました。就寝前に1日1回、両目に1滴ずつ点眼する治療で、対象は5歳以上(〜15歳頃まで)の軽度〜中等度の近視のお子さまです。

点眼薬代(実費)は1箱(30本入・約1か月分)あたり4,500円(税込)が目安で、医療機関や調剤薬局によって多少前後します。診察・定期検査には健康保険が適用されます。防腐剤フリーの製剤で、点眼後にまぶしさ(羞明)を感じる方が比較的多く報告されているほか、目のかすみなどが起こることがあります。対象となるお子さま・使用方法・副作用など、詳しい内容は低濃度アトロピン点眼のページでご案内しています。

マイサイト(近視抑制コンタクトレンズ)

「コンタクトなら、近視を抑えながら普通に生活できますか」というお声もいただきます。マイサイト®(MiSight® 1 day)は、2025年に国内で製造販売承認を取得し、2026年から発売された、子ども用の1日使い捨てソフトコンタクトレンズです。レンズの中心に日中の視力を矯正するゾーン、その周辺に近視の進行を抑えるゾーンを配置した「デュアルフォーカス」構造により、視力を矯正しながら近視の進行そのものを緩やかにします。

3年間追跡した海外の大規模臨床試験では、通常のワンデーコンタクトレンズを装用した場合と比べて、近視の進行を平均59%、眼軸長の伸びを平均52%抑制したという報告があり、最長7年間の追跡調査でも効果の持続が確認されています。これは臨床試験における平均値で、当院での治療効果を保証するものではなく、効果には個人差があります。

1日10時間以上・週4日以上の装用が目安で、就寝前には必ず外して廃棄します。対象はおおむね8歳〜15歳頃までで、自分でレンズの着脱ができる、または保護者のサポートが得られるお子さまが対象です。レンズ代(実費)は両眼1か月あたり11,000円(税込)で、診察・検査には健康保険が適用されます。初診時には、レンズが装用できるかを確認する適応検査と装用練習を行います。毎日交換するワンデータイプのためレンズケアの手間がなく衛生的ですが、装用時間や交換のルールを守らないと、他のコンタクトレンズと同様に感染症などのリスクが高まります。

治療法の選び方

「結局、うちの子にはどれが向いているんでしょうか」というのが、比較表を見た後によく聞かれる質問です。点眼治療(リジュセア)とオルソケラトロジーやマイサイトのような物理的な矯正は併用でき、組み合わせることでより高い抑制効果を狙うケースもあります。何歳から始められるか、毎晩の点眼や就寝前のレンズ装用、日中のコンタクト着脱を続けられるかによって、向いている治療法は変わります。自分でコンタクトの着脱ができる年齢が目安で、より小さなお子さまには点眼治療(リジュセア)から始めるケースが多くなります。

受診・治療開始までの流れ

「まず何をすればいいんですか」という方には、次のような流れをご案内しています。

近視の状態を検査する

屈折検査や眼軸長測定で、近視の程度と進むスピードを確認します。

治療法をご説明する

お子さまの年齢や近視の程度、毎晩の点眼やレンズの着脱を続けられそうかといった生活スタイルに合わせて、選べる治療法をご説明します。

治療を開始する

オルソケラトロジーは適応検査を経てレンズを処方します。点眼・コンタクトは、それぞれの使用方法をご案内したうえで治療を始めます。

定期的に通院し経過を確認する

3か月〜6か月ごとを目安に通院いただき、近視の進み具合や装用の状況を確認しながら治療を続けます。

上記は一般的な流れの目安です。

よくあるご質問

Q
近視進行抑制治療は何歳から始められますか?
A

治療法によって対象年齢が異なります。点眼治療(リジュセア)は5歳以上、マイサイトはおおむね8歳以上が目安です。オルソケラトロジーには明確な年齢の下限はありませんが、未成年への処方に慎重な判断が必要です。

Q
保険は使えますか?
A

近視進行抑制のための治療自体は保険適用外の自由診療です。ただしリジュセアは、診察・検査費用に健康保険を適用できる「選定療養」の仕組みの対象です。

Q
複数の治療を組み合わせることはできますか?
A

点眼治療とオルソケラトロジーやマイサイトの併用は可能で、組み合わせることでより高い抑制効果を狙うケースもあります。

Q
一度治療をやめると近視の進行は元に戻りますか?
A

治療をやめると、多くの場合はその子ども本来の進行スピードに戻ります。近視の進行が落ち着きやすい10代後半頃まで、治療を継続することが基本です。

Q
治療の効果はどのくらいで分かりますか?
A

近視の進行度合いは、屈折度数や眼軸長の変化として3か月〜半年程度で確認します。効果の実感には個人差があるため、定期検査で経過を見ながら判断します。

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院長 野村 圭子

眼科を担当。白内障や緑内障などの一般眼科診療から、小児眼科・アレルギー性結膜炎など幅広く対応します。

保有資格・略歴

  • 昭和63年 東京女子医科大学卒業・同大学眼科医局入局
  • 平成11年 米国ロチェスター大学角膜移植部留学
  • 平成13年 東京女子医科大学眼科准講師
  • 日本眼科学会専門医

低濃度アトロピン点眼について詳しくは、低濃度アトロピン点眼のページでご案内しています。お子さまの近視の進み方や生活スタイルに合った治療法は、診察の中でご提案しますので、まずはお気軽にご相談ください。