前立腺肥大症とは
「歳のせいだと思っていたら前立腺肥大症だった」という患者さんは少なくありません。前立腺は膀胱のすぐ下にあり、尿道を取り囲むように位置する、男性だけが持つ臓器です。加齢とともに前立腺の中の組織が増えていき、少しずつ大きくなっていく。これが前立腺肥大症です。大きくなった前立腺が尿道を圧迫すると尿の通り道が狭くなり、頻尿や尿の勢いの低下など、排尿にまつわるさまざまな症状が出てきます。
良性の変化で、前立腺がんとは別の病気です。ただし同じ前立腺で起こる変化という点は共通していて、両方が同時に見つかることもあります。詳しくは後ほど「前立腺がんとの違い」でご説明します。
主な症状
前立腺肥大症の症状は、尿をためる際に出る「蓄尿症状」と、尿を出す際に出る「排出症状」の2つに大きく分けられます。
蓄尿症状
- 頻尿(特に就寝後にトイレのため何度も起きる夜間頻尿)
- 尿意切迫感(急に強い尿意を感じる)
- 尿意を我慢しにくい
排出症状
- 尿の勢いが弱い(尿勢低下)
- 排尿を開始するまでに時間がかかる
- 尿が途中で途切れる(尿線途絶)
- 排尿後も残尿感が残る
「前立腺がそんなに大きくないのに、なぜこんなに頻尿なんですか」と聞かれることがあります。実は、症状の強さと前立腺の大きさは必ずしも比例しません。小さくても症状が強く出る方もいれば、大きくても症状が軽い方もいます。症状の程度は、国際前立腺症状スコア(IPSS)という問診票で点数化し、経過を追っていきます。
過活動膀胱との違い
「頻尿がひどいので過活動膀胱かと思っていました」という方が、実は前立腺肥大症だったというケースもよくあります。頻尿や尿意切迫感は過活動膀胱でもみられる症状で、症状だけで両者を区別することはできません。過活動膀胱は膀胱の異常な収縮が原因であるのに対し、前立腺肥大症は前立腺による物理的な圧迫が原因という違いがあります。両方が合併している方も少なくないので、尿流量測定や残尿測定などの検査を組み合わせて原因を見極めていきます。
前立腺がんとの違い
前立腺肥大症と前立腺がんは、いずれも前立腺に起こる変化ですが、まったく別の病気です。前立腺肥大症は良性の変化である一方、前立腺がんは悪性腫瘍です。初期の前立腺がんはほとんど自覚症状がなく、排尿症状の有無だけで両者を見分けることはできません。
「症状がないから大丈夫」とは言い切れないのはこのためです。当院では血液検査でPSA(前立腺特異抗原)の値を確認し、前立腺がんの可能性がないかもあわせて調べます。PSA値に異常がみられた場合は、精密検査が可能な医療機関と連携してご紹介します。
緊急に受診が必要な症状
「急に尿が出なくなった」というときは、緊急の対応が必要です。前立腺肥大症が進行すると、尿がまったく出なくなる「急性尿閉」を起こすことがあります。
尿がまったく出ない、下腹部が強く張って痛む、といった症状があれば、すぐに医療機関を受診してください。膀胱に尿がたまり続けると、腎臓に負担がかかるおそれがあります。
診断の流れ
「これから何をされるんですか」と不安に思う方のために、診断の主な流れをご紹介します。次のような検査を組み合わせて進めていきますが、順序や組み合わせは症状によって前後します。
普段の排尿の様子を問診票で点数化し、症状の程度を客観的に把握します。
専用の機器に向かって排尿していただき、尿の勢いや排尿にかかる時間を測定します。
排尿後に膀胱内へ残っている尿の量を、超音波を使って確認します。
直腸から前立腺の大きさや硬さを触診で確認するとともに、血液検査でPSA値を測定し、前立腺がんの可能性もあわせて確認します。
前立腺の大きさや形を画像で確認し、治療方針を判断する材料とします。
治療方法
「薬はいつまで飲むんですか」「手術しないと治りませんか」と聞かれることがよくあります。治療は生活習慣の見直しだけで様子をみる場合もあれば、内服治療、手術治療へと段階的に進める場合もあり、症状の程度によって変わってきます。
生活習慣の見直し
就寝前の水分やアルコール、カフェインの摂り過ぎを控える。長時間座り続けることを避ける。便秘を放置しない。こうした日常生活の工夫だけで、症状が和らぐこともあります。症状が軽い場合は、まずここから始めていきます。
内服治療
「薬にはどんな種類があるんですか」という質問をよくいただきます。内服治療で使う薬にはいくつか種類があり、症状の程度や前立腺の大きさによって選び分けていきます。
| 薬剤の種類 | 主なはたらき | 主な副作用・注意点 |
|---|---|---|
| α1遮断薬 | 前立腺・尿道周囲の筋肉の緊張をゆるめ、尿の通りを良くします。比較的早く効果が現れる薬です。 | 立ちくらみやめまい、鼻づまりなどが現れることがあります。個人差があります。 |
| 5α還元酵素阻害薬 | 前立腺そのものを縮小させる方向にはたらきます。効果が現れるまで数か月かかります。 | 性機能への影響が現れることがあります。個人差があります。 |
| PDE5阻害薬 | 尿道・前立腺・膀胱周囲の血流を促し、排尿症状の緩和を目的として使用します。 | 頭痛やほてり、動悸などが現れることがあります。硝酸薬を服用中の方は使用できません。 |
| 漢方薬 | 八味地黄丸・牛車腎気丸などが排尿症状の緩和を目的に用いられることがあります。 | 体質により合う・合わないがあります。 |
薬を複数組み合わせて使うこともあります。自己判断で服用をやめず、効果や副作用の状況を診察で確認しながら続けてください。
手術治療
「薬を飲んでも良くならない場合はどうなるんですか」という質問には、手術治療についてお話しします。内服治療で十分な改善が得られない場合や、尿閉を繰り返す場合には手術を検討します。代表的な方法が、尿道から内視鏡を挿入して肥大した前立腺を切除する経尿道的前立腺切除術(TURP)です。手術が必要と判断した場合は、専門医療機関と連携してご紹介しています。
よくあるご質問
前立腺は加齢とともに大きくなっていく傾向があるので、自然に縮小することはあまり期待できません。症状が軽ければ生活習慣の見直しで経過をみることもありますが、進行すると内服治療が必要になります。定期的に受診して、経過を確認していきましょう。
夜間頻尿は前立腺肥大症でよくみられる症状の一つですが、水分の摂り過ぎや睡眠時無呼吸など、別の原因が関係していることもあります。原因を特定するために、一度検査を受けてみましょう。
多くの場合、症状を抑えるための治療は継続していくことになります。自己判断で中止すると症状がぶり返すことがあるので、量や種類の調整は医師と相談しながら進めていきましょう。
いいえ。PSA値は前立腺肥大症や前立腺炎でも上昇することがあり、数値が高いからといって必ずしも前立腺がんとは限りません。異常がみられた場合は、精密検査で原因を確認していきます。
TURPなどの手術は、肥大した部分を取り除いて排尿症状を改善するための治療です。手術後、前立腺の別の部分が再び大きくなって症状が戻ることもあります。
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排尿の症状は「歳のせい」と我慢してしまいがちですが、暮らしの質に関わる大切なサインです。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。